Mr.Bank

農業も 婚活も。地銀におまかせを

「おいしい農産物の販売は、私どもにお任せください。人手不足でお困りでしたらいい人材を紹介しますし、婚活もお手伝いします」こんなサービス、いったいどんな会社がするのだろうー。実は、いずれも地方銀行が始めた新たな取り組みだ。人口減少や低金利で厳しい経営が続く地銀。貸し出しなど従来のビジネスだけを続けていては生き残れないという危機感から、模索が始まっている。各地に広がる新たな動きを追った。
(経済部記者 柴田明宏 青森放送局記者 吉元明訓)

婚活は、地銀で

9月、一風変わった業務提携の発表に目がとまった。長野県の長野銀行が、婚活サービスを展開する東京の企業「IBJ」と連携して、独身の経営者向けに結婚相手の紹介のお手伝いをするというのだ。

それにしても、なぜ銀行が婚活支援なんだろう。長野銀行の担当者に聞いてみると「これまでとは違う<事業承継>の支援です」と。

「事業承継」は、いま産業界の大きな課題になっている。後継者がいないため廃業する中小企業は少なくない。人口減少が続く長野県ももちろん例外ではない。

銀行の目線でみれば、貸し出し先の中小企業や小規模事業者の廃業は、ビジネスの先細りに直結する。このため長野銀行でも、後継ぎのいない中小企業に、後任の社長候補を紹介したり、事業を買い取ってくれる企業探しに力を入れてきた。

長野銀行は「独身経営者の婚活をお手伝いすることは、長い目で後継者の育成につながります。われわれとしては今後のビジネスにつながると思っています」と話す。

こうした婚活支援。愛知県の名古屋銀行は、一足早く、去年から「IBJ」と提携。取引先の独身の男女に声をかけて婚活パーティーを開いているという。

人材紹介も地銀で

「人材紹介」も始まっている。人手不足に悩む取引先の中小企業に、別の会社の社員やOBなどを紹介するサービスだ。

地元の多くの企業とつながる銀行は、どこに、どんな人材がいるかという情報も集まる。それを活用しない手はないという訳だ。

北海道の北洋銀行はそのパイオニアだ。政府主導で設立された人材サービス会社の日本人材機構とともに、取引先の中小企業に、経営や財務にあたる人材を紹介。それで収益をあげているという。

全国地方銀行協会は、人材サービスを銀行のビジネスにしようと踏み込む。地銀に「人材派遣業」を解禁するよう政府に要望書を送っている。銀行に人材登録をして、取引先へと送り込めるようにする規制緩和を求めているのだ。

農業にも進出します

「農業」に活路を見いだそうとする地銀もでてきた。青森県のみちのく銀行だ。ことし1月、東京のIT企業「オプティム」と組んで、農産物の栽培や販売を支援する会社を立ち上げた。

青森県の人口減少率は全国2番目の大きさ。みちのく銀行は市場の縮小に強い危機感を持っていた。そこで目をつけたのが主要産業の農業だった。

実は青森県の農家は全国に比べると若い人が多い。やる気ある若い農家の事業拡大を支援し、そこに融資ができればチャンスになると考えたのだ。

“稼げる農業”を実現する鍵を「減農薬」と位置づけ、ITを使った「スマート農業」の導入を支援している。ドローンを飛ばして上空から田んぼの画像を撮影。その画像をAI=人工知能で分析し病害虫や雑草が発生する場所を絞り込んでピンポイントで農薬を散布する。

導入した農家によると、農薬の量をこれまでの10分の1程度、作業にかかる時間は3分の1程度に減ったという。

収穫したコメの売り出しも支援する。健康志向の消費者をターゲットに「スマート米」と銘打ってインターネットの通販サイトで販売している。

パッケージのデザインにも工夫を凝らし「減農薬」を強調している。コメは、従来の価格の2.5倍から3倍程度で売れるようになったという。

「農家の規模が拡大すれば、法人化やさまざまな設備投資のために資金が必要になる。その時が銀行の出番だ」みちのく銀行が立ち上げた会社は、地域の特産品の生産支援や販売などを手がける「地域商社」と呼ばれる。地銀が新たなビジネスとして地域商社に出資する動きは、山口県や新潟県など全国で相次いでいる。

経営改善への模索

金融庁も地方銀行を後押ししている。銀行は、別の企業の株式を5%を超えて保有することは、原則、禁じられている。

銀行が本業以外に手を染め、財務の健全性が損なわれるようなことがあっては、預金者に迷惑が及ぶからだ。しかし、それを思い切って見直した。10月に監督指針を見直し、認可をとれば、銀行が100%出資する「地域商社」の設立を認めることを明確にした。

人材紹介もできるように監督指針を変えた。お金をやり取りする「銀行」から、人材、モノ、情報をやり取りする「サービス業」への脱皮をうながす金融庁のメッセージといえそうだ。

金融機関の経営アドバイザー・日本資産運用基盤の大原啓一社長も新分野への進出を呼びかけている。

「地銀の強みは、地域住民や中小企業とのネットワーク、信頼感だ。この強みを生かして、地銀が地域の人材やモノ、情報のハブとなる能力があると思う」

静かに進行する“危機”

地銀の収益環境はじり貧だ。2018年度の決算では、貸し出しや手数料のもうけにあたる「顧客向けサービス業務損益」は全国105行のうち実におよそ4割が赤字だ。

日銀のマイナス金利政策の長期化で収益環境は当面、厳しいままだ。バブル崩壊後の不良債権問題で、かつて多くの地銀が危機に陥り、公的資金で救済された。

そうした混乱は今の地銀には見られない。しかし金融庁幹部は警鐘を鳴らしている。

「不良債権処理では世間の批判をあびながらも、公的資金で危機に対処できた。いまは静かに、徐々に危機が進行している。地銀の経営者はそれに気付かなければならない」

地方銀行が新たなビジネスの芽をどう育んでいくか、脱皮のための時間の猶予はそれほどないのかもしれない。


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